公開
2017-10-24
執筆者
野嵜健秀 ( @nozakitakehide )
おことわり
「自動車は買つてみないとわからない」(2014年5月5日初版発行・はなごよみ刊)のオンライン版です。

05 フォルクスワーゲン・ポロ

国産車のディーラーには適当なジャンパーを着て行つたのだが、外車のディーラーなので、少しだけ尤もらしい恰好を……と云ふ事で、一番最近に買つたちよつとそれつぽいジャケットを引掛けて、コルサで乗り付けた。

裏道から駐車場に這入ると、営業の人が誘導して呉れた。中古車担当のマネージャーさんださうだ。このフォルクスワーゲンディーラーでは、中古車担当と新車担当とでセールスマンが違ふのだとか。一往新車を……と云ふ事で、担当さんを代つて貰ふ。コーヒーを出して貰つて、飲みながら席で待つ。えらく待たされる――。

そのうち眼鏡をかけたヴェテランの人が出てきた。Nさん。

コンパクトカーを検討中、Up!の事を知りたいと伝へる。取敢ず展示車のUp!を見せて貰ふ。運転席に坐らせて貰つたりしながら、フォルクスワーゲンのくるまの特徴をレクチャーされる。大きなくるまも小さなくるまもフォルクスワーゲンでは作り方が変らない。熔接は、他社のくるまだとスポット熔接になるが、フォルクスワーゲンではレーザー熔接で、線状にしつかり熔接する。ドアのヒンジも丈夫な鋳鉄を使つてゐる。Up!は小さくても上級のくるまと安全性に違ひはありません。

しかし、申しわけないが、このお店ではUp!の試乗車が用意されてゐません、との事。ただ、話を聞く限り、要求されるレヴェルから考へて、何うもUp!よりもポロの方が適当のやうです。ポロなら試乗車が用意できるから、乗つてみませんか。Nさんは提案して呉れた。

ポロはさすがに高いから買へない、予算内でをさまるのはUp!――さう云ふ事で話をしてゐたのだが、実際のところポロは憧れのくるま。乗るだけなら……。

試しに乗つてみる事にした。

用意ができるまでお待ち下さい、との事で、またコーヒーを飲みながら待つ事しばし。なんか矢鱈待たされた。

そのうち、準備が出来ました、との事で、お店の外へ……中古車で販売されるポロが一台、試乗用に引張り出されてきてゐた。注意点は特にないが、ウィンカーのレバーがハンドルの左側にある、それだけ国産車と違ひます、との事。

キーをハンドルの右下の穴に差し込んでひねるとエンジンがかかる。結構いい音だ。あんまり気にならなかつたが、ボンネットの下からかたかた音がしてゐる。Nさんが、これは不具合なので販売されるまでに直します、と説明して呉れる(ウェブで調べて後で知つたのだが、これは6Rポロでは有名な不具合。エアコンのダクトが振動してぶつかるらしい。メーカから対策の指示が出ず、どのディーラーでもユーザから報告があるたび、場当り的に処置を施してゐたものらしい)。

試乗コースを指示されながらくるまを走らせる。裏道に出た後、東電の変電所の脇のあまり広くない道を通り、アリオ橋本のところで北に曲がつて、横浜線の下をくぐる。そこからどう進むのかと思つたら、さらにまつすぐ進むのだと言ふ。この間、他に試乗したくるまの印象はどうでしたか、とか聞かれ、こちらも感想を簡単に述べる。そのうち、広い道が終つて、先が狭くなる十字路に着いてしまふ。ここでどつちに行くか。指示を仰ぐと、まつすぐだと言ふ。

住宅地の中を川に向けて降りていく狭い通学路で、非常に危ない道である(小学校に入学した時、この道の十字路で飛び出しをやらかして、走つてきたくるまの横にぶつかつた経験がある。無傷)。兎に角狭いので、恐る恐るくるまを走らせる。狭いのにやたらくるまが通る。対向車が来る度、一旦停止してやり過ごす。橋を渡り、相模原市と町田市の境を越える。町田街道に出て、ほつと一息つく。

町田街道で、Nさんから、現在Dレンジで走らせてゐる事を聞かされる。田端の交叉点で左に曲がつていただくが、そこから山道になる、Sレンジに入れて走らせてみて下さい。

言はれた通り、Dレンジに入れてあつたシフトレバーをSレンジに入れて、走り出す。走り出したらエンジンの音が変つた。

くるまの性格が見事に変化した。兔に角活発に走る。

登り坂をSレンジで登る。空いてゐる道で、ばんばん飛ばせる。坂のてつぺんに交叉点があつて、赤信号だから止まるのだが、アクセルをゆるめていつたら順番にシフトダウンしていつて、その際いちいちエンジンを吹かして呉れる。やつぱり後で調べて知つたのだが、これがブリッピングと云ふやつで、回転数を合はせるテクニックらしい。感覚がまだつかめてゐないので、交叉点の可なり手前で止まりさうになつて、少しアクセルを吹かして位置を合せる。

てつぺんの交叉点から今度は下り坂になる。制限速度を守つて走つてゐるけれども、物凄く愉快な気分になつた。何と言ふか、えらく楽しい。どこまでも走つて行く積りで走らせてゐると、そこの公園の駐車場でUターンして戻りませう、との指示。

帰り道のルートは行きの反対……さつきは下りだつたところを今度は登る。登りだつたところを今度は下る。この頃には段々運転に慣れてきたやうな気に。山道区間が終り、Dレンジにシフトレバーを戻して、また狭い道を行く。用心深く走らせるのだが、さつきと違つて、くるまが体になじんできたやうな感覚だ。

暗くなつてきたのでヘッドライトを点ける。ライトのスイッチがまた国産車と違ふ事を教へて貰ふ。国産車はハンドルの右、ウィンカーレバーをひねるとライトが点灯する。外車の場合、ダッシュボードの右端にスイッチが設置されてゐて、廻すとライトがつく。すつかり暗くなつてお店に到着。

ポロの新車の見積りを一往貰ふ。予算オーヴァなのは明らかである……。


おうちに帰ると、しばらくして、Nさんから、今日は有難うございました、と叮嚀なお礼の電話がかかつてきた。


……ここで本当に深く考へ込んでしまふ事になる。どのくるまを買へば良いのだらう……


ここで一度、それぞれのくるまについて、印象や考へをまとめておかう。


スズキ・スイフト――乗り心地は満足。価格は微妙。セールスマンさんの印象は大変良し。

マツダ・デミオ――運転して非常に楽しい。なじむ感じあり。セールスマンの印象は悪くない。

マツダ・アクセラ――運転できなくもないがでかい(幅が広い)。価格は高め。

ホンダ・フィット――普通。実用性は高さう。セールスマンは微妙。

フォルクスワーゲン・ポロ――運転して非常に楽しい。持つてゐれば満足できさう。しかし高い。セールスマンさんの印象は大変良し。


一長一短。これでは結論が出ない。

そこで発想を変へる事にした。


「そのくるまを買つたら、何を後悔するか」


完全に想像なのだが、兔に角、買つたら何う後悔するか、を考へてみた。後悔する事確実なくるまは、やめておいた方が良からう。この時アクセラは既に検討対象外となつてゐる。


スズキ・スイフト――「デミオとかポロとかの方が面白かつただらうなー」

マツダ・デミオ――「フィットの方が広い」「ポロだつたら何うだつただらう」

ホンダ・フィット――「運転つまんね」「デミオやポロの方が良かつたんでないか」

フォルクスワーゲン・ポロ――「高かつた」


……。

ポロ以外あり得ない。

案外簡単に結論が出た。


ところで、比較・検討した値段は、新車の値段である。新車同士で対決させれば、国産車が安い。ポロは割高だ。

ポロが中古車なら何うか。

ポロの中古車とデミオなんかの新車とだつたら、価格の差は、少し縮まる。

ポロの中古車を検討してみよう……ただし、その辺の中古屋のくるまではない。ディーラーで扱ふ認定中古車だ。認定中古車なら信頼できる。この事を俺は知つてゐる。

ウェブで調べてみると、安いポロの認定中古車が売られてゐる。さつき試乗したまさにそのものの個体だ。ポロ1.2 TSI Comfortline。しかし、見てみると、Highlineにもいい出物がある。おまけに同じ値段がつけられてゐる。ナビ、ETCなしのHighline。1.2リッターの2010年型で、日本に入つてきた初期のものらしい。

おふくろに一往相談してみると、中古車でも構はない、と言ふ。

翌日、ディーラーに電話して、Nさんに、認定中古車のポロを買ふ、と伝へた。

お店でNさんから中古車担当のMさんに業務が引き継がれる。Mさんのレクチャを受けつつ、お金を払つたり書類を書いたり……。自動車税の計算をミスつてゐて、あとでお金が返つて来た。ポロはエコカー減税の対象車である。


2週間後、うちにポロがやつてきた。と言ふか、コルサでディーラーに乗りつけて、ポロに乗つて帰つてきた。コルサくんありがたうそしてさやうなら……。橋本五差路の上をまたぐ16号線の陸橋を通つてきたが、アクセルを踏んだらあれよあれよと言ふ間に速度計の針がまはる。

多摩ニュータウンの山の中を走らせてみたが、コルサがやつとこさつとこ走つてゐた道を、当り前のやうにてつてこ走る。ただ、まだまだ慣れが必要さうだ。DレンジとSレンジは、ちよつと考へて使ひ分けた方がいいみたい。

とは言へ、買ひ物で近所のスーパーまでちよつと乗るだけでも、楽しい気分になれる。ヨーロッパのくるまである。


しかし……。

自動車は買つてみないとわからない

  1. はじめにコルサありき
  2. スズキ・スイフト
  3. マツダ・デミオ/アクセラ
  4. ホンダ・フィット
  5. フォルクスワーゲン・ポロ
  6. 好事魔多し
  7. BMW・116i(初代1シリーズ)
  8. ポロが戻つてきて……
  9. まとめ