公開
2017-03-13
執筆者
いとう はむこ ( @hamuko_5364 )
執筆者からのおことわり
本文中にはいくつかの疾病とその治療に関する記述がありますが、全ていとうはむこ(以下筆者)の体験談です。筆者は医療者ではないため、筆者が取つてゐる行動には医学的に正しくない場合が多々あります。
特定の疾病の鑑別や治療に関しては専門医や総合診療医の指示に従つてください。素人診断によつて生じる如何なる結果についても筆者及び正仮名オルグは一切の責任を負ひかねます。

ぽんぽんぺいんにご用心/四 ㍀㍀㌷㌅にご用心

腸閉塞とは何らかの原因で腸管がつまり、消化物が排出できなくなる疾患です。これも決して珍しい疾病ではありません。珍しくはありませんが、適切な治療を行はないと死にます。腸が腐り、腸に穴が開き、糞が腹腔内にあふれて死にます(意訳)。

杉花粉の飛散が始まる頃、ある事情から筆者は休職し実家で静養してゐました。長いこと家を離れてゐる間にいろいろと家族リスク事案も生じてをり、あまり静養になつてゐない気もしましたがそれは別の話。

それはぽんぽんぺいんから始まつた。

ある寒い土曜日。その日は朝起きた時から臍部に間断的な痛みがありました。折しも筆者は筋力トレーニングのメニュー見直しを行つてゐました。丁度腹筋背筋の鍛錬を強化してゐたこともあり、腹筋への過負荷による筋肉痛と誤認して放置しました。

なんかコイツ、後でひどい目に遭ふのに放置しすぎぢやね?馬鹿なの?死ぬの? 迂闊と呼ばないで!これでも筆者は昔から、石橋を叩いて叩いて仕舞ひには叩き壊してから落ちるタイプと云はry 筆者は平時から一日二度も三度も便通があり、便秘の傾向もありませんでした。その日も便秘も下痢もなく平常通りの便通が午前中に二度あり、消化器の異常については疑ひもせずにゐたと記憶してをります。

ただ、今になつて思ひ返すと矢鱈と黄色い尿が出てをりました。脱水を伺はせる兆候ですが、脱水は腸閉塞の原因にもなり得れば、症状でもあります。相関乃至因果については専門家の鑑別が不可欠で、予断で私見を述べることは極めて危険と云はざるを得ません。

午後には便通とガスの排出が全くなくなり、排尿も少なくなつてをりました。腹痛は増悪し横臥しても腹痛は楽にならず間断は次第に短く痛みは強くなりました。しかし、その段階で医療機関を訪れるべきだつた、とは後からだから云へる事です。下痢や嘔吐などはなく食欲も落ちてゐないことなどから機会を逸しました。

夕食後に酔ひ蕩れた父親と言ひ争ひを一戦やらかし、イライラしながら頓用の睡眠薬を投与して床に就くのですが……それが眠れない夜の始まりになりました。

痛風の時もですが、何うも筆者は土曜の夜が鬼門の様です。週末に恨まれてんのか?


仰臥してゐると痛みが増悪します。

横臥すると少し楽になります。

直に痛みは強くなります。

態勢に関らず痛みが強くなります。

やけに喉が渇きます。

変にゲップが出ます。

次第に胸がむかむかしてきます。

冷や汗が滲み出してきます。

痛いです。

苦しいです。

ボスけて。


やばい、思ひ出してゐるだけで辛くなつてきました。やだもー、これトラウマぢやん。


午前三時頃、遂に苦痛に耐へ兼ねて救急搬送を決意しました。その段階ではまだ余力があり、母を起こして救急車を呼ぶ旨を伝へ、お薬手帳や保険証などを手元にかき集め、自分で119番しました。

因みに、筆者は自分で119番をコールするのがこれで三度目です。件の痛風と、それより昔に過呼吸の発作でも一度搬送を受けてゐたりします。その双方ともに不適切な救急搬送だつたのが大変心苦しいところです。今回ばかりは、三度目の正直と云つては変ですが、初めて救急搬送の判断が正しかつたことになります。と云つても、昼間のうちに病院に駆け込んでおいた方が尚良かつたのですけれどね。まあ、それは後出しジャンケンもいいところです。抑も一つ間違へば死ぬ病気だつたのだから救急搬送で正しいです。

日曜日の早朝と云ふこともあり、受け入れ先がなかなか見つからなかつたさうです。筆者は救急車に収容後は苦痛と疲労と若干の安心感に虚脱気味でしたので記憶が曖昧ですが、付き添ひで同乗した母は気が気ではなかつたとのことでした。最終的に受け入れ先は隣県ですが車で15分ほどの病院に決まりました。

病院では問診、触診、聴診、レントゲン、CTなどを受けた記憶があります。問診の内容は、痛みの度合ひ、下痢嘔吐の有無、ガス排出や便通の有無などでした。そして夜が明ける頃には腸閉塞の診断を受け、そのまま入院。恐らく鎮静剤か痛み止めかの類ひが点滴に入つてゐたのでせう、苦痛で眠れない夜は斯うして終はりました。


ああ、書いてゐて具合悪くなるかと思つた、苦痛の記憶が生々しくトラウマめいたアトモスフィアをですねアイエエ!

でも大丈夫です、今はガスも便通も、透明な尿も出てゐます(きたない(臭さう)。


さて。今回の腸閉塞の治療は、何はなくとも先づ絶食が絶対条件とされてゐます。絶食で胃腸を休ませてそれで腸の蠕動が戻れば良し、さうでない場合には管を挿入して減圧、重症の場合は開腹手術などが考へられるとのことです。

筆者の場合、入院した段階での医師の見立ては糞便性腸閉塞であり、絶食で快方に向かふ可能性が高いとのことでした。

ponponpainの次はponponempty

日曜日未明に搬入されてから始まつた絶食。月曜日の段階で既に少量の便通と複数回ガス排出があり、医師からは造影剤を入れての検査を提案されてゐます。筆者はそこまでの便通で入院前の食事が全部排出されたと考へられませんでした。無暗にゲップが出る状態と膨満感、かなり弱くなつたとは云へ間断的な腹痛は続いてゐたのです。造影剤を入れることに不安を感じる旨を医師に伝へたところ、検査は翌日となりました。

膨満感が残つてゐること、点滴で水分が補充されてゐること、ずつと横になつてゐることから、この段階では然程強い空腹は感じませんでした。

すごく……不味いです……

火曜日の午前中、造影剤の検査を行ふことになりました。実に48時間ぶりの口に入れたものが、その造影剤になる訳ですが。いやあ、その、大変に不味いんですね、これが。造影剤と聞いてバリウムを連想してゐましたが、その程度であればどれだけ良かつたか。バリウムよりも甘つたるくて、バリウムより薬臭くて、量がバリウムより少ないだけが若干の救ひか。因みに、撮影後排泄を促すためなのか、飲むとすぐに下痢が始まりました。

あのさぁ(棒読み)……下痢するために不味い物を飲むとか闇の罰ゲームか何かですかね。誰だよ千年パズル解いたの。まあクッサイ淫夢ネタは至極何うでもいいとして、下痢があると云ふことは閉塞は解消されてゐるのだなと感じて安心したのを覚えてをります。実際その日の午後には医師からも経過が良好である旨説明を受け、翌日から流動食が開始となりました。

すごく……美味しいです……

それは、重湯と具なしの味噌汁でした。重湯には練り梅が付けられました。前日に造影剤を口に入れてゐますし、薬と水分は許可されてゐたので、厳密には72時間ぶりの飲食ではありません。ですが、何はなくとも塩味ですよ塩味。味噌汁のみそ味と出汁の香り。練り梅の酸味。重湯にほんの少し振られたであらう塩。それだけなのに、それは何と云ふ滋味だつたか。言葉通り染み渡る様でした。

そりやすずさん達も、泣いてばかりでは塩分が勿体ない、と云ふ訳ですよ。

結局一週間の入院となりました。病院食が評判のいい病院でしたが、退院後までお粥しか食べられず副菜もほかの患者とは別メニューだつたのは残念です。ただ、72時間絶食後の食事と云ふなかなかに稀有な体験をしましたし、それだけ絶食してゐるとたかが流動食でも大変に美味しいものでした。

その後は大建中湯の処方を受け、その後は経過観察も不要とのことで治療は完了してをります。ちなみに大建中湯は不味いと医師に云はれましたが、私は割と好きです。要するに人参と山椒と生姜ですが、案外美味しいんですよ、これ(ぉ)。

(イオク様は知らない概念)後始末

今回失敗だつたのは高額療養費の申請を事前にできなかつた事です。二日目以降は苦痛も少なく元気でしたし、体力を落とさない様にスクワットと柔軟体操をする様な気遣ひはしてゐたのですが、高額療養費のことをすつかり忘れてゐました。シャワールームで物故くためにスマホにアレな画像を落としたりとかそんな気遣ひはできてをりながら(黙れ)、会計の事を一切失念してゐました。一週間あつたのだから申請を先に済ませたら窓口の段階で減額ができた筈です。

今回は手術を伴ひませんでしたがかなり高額の医療費です。鼠径ヘルニアで手術を伴ふ入院をした時と同じ程度の額が飛んで行き、請求書を見たときは割と絶句。鼠径ヘルニアの場合は生命保険の手術給付金があり、白内障の時同様利益が出ました。ですが今回は赤字です。つまり腸閉塞はコスパが悪いです。コスパが悪い病気は悪い文化です(?)。手術が伴へば、給付金は鼠径ヘルニアよりかなり高い様ですのでもしかして利益が出る……すでもか(cv久野美咲)。

しかし腸管にまで侵襲する手術なら術後のQOL低下は、鼠径ヘルニアや白内障などのそれと比較にならないことでせう。それこそ癒着性腸閉塞の心配が一生ついて回ることになりますので長い目で見れば腹は開けないに如かず、抑もこんな病気にならないことが一番ですね。

シリーズ・ぽんぽんぺいんにご用心

  1. 闘病記/ぽんぽんぺいんにご用心 一
  2. 闘病記/ぽんぽんぺいんにご用心 二
  3. 闘病記/ぽんぽんぺいんにご用心 三
  4. 闘病記/ぽんぽんぺいんにご用心 四
  5. 闘病記/ぽんぽんぺいんにご用心 五
  6. 闘病記/ぽんぽんぺいんにご用心 参照文献