公開
2017-02-20
執筆者
野嵜健秀 ( @nozakitakehide )
おことわり
この記事は2015年春頃に執筆されたものです。

自動車レビュー/ダイハツ・コペン(二代目)

 2014年の夏……家のリフォーム絡みで家族間でいろいろあつて頭にきてゐた頃の事である。

 リフォーム工事の關係でくるまを朝から車庫から出さねばならなくなつて、行くところもないので取敢ずダイハツのディーラーに行つてみた。

 新型コペンが出たばかりで興味津々。ポロを買換へる豫定はないとは言へ、いざとなれば塀をこはして二臺目のくるまを置く場所をつくる積りでゐた。あとで思ひ返すと、隨分テンパッてゐたものである。


 ダイハツのディーラーはうちから行くと國道16號線を越えた先にある。建直したばかりで、とてもきれいな店舗である。ポロで乘付けたが課長さんに應對して貰つた。大阪商人つぽい營業さんだが、買ふ氣がない客と見られたらしく、比較的淡白な扱ひ。テーブルでちよつとお話をしてから試乘へ……。

 店の表に出ると試乘車が用意されてゐた。コペンはダイハツのオープンカーで、先代はまるつこい可愛らしいくるまだつたが、代替りして精悍なデザインに變つた。幌が電動で開いたり閉ぢたりする。年配のお客さんが興味深さうに覗いてゐた。くるまは二人乘り。營業さんが助手席に坐ると荷物の置き場がない。いつたん幌を閉ぢてトランクに鞄を投げ込み、再び開く。幌を開けた状態ではトランクの中にアクセスできない。

 なにぶん輕なので幅が狹い。座席はゆつたりしたものではない。ただし、きちんと坐れるので違和感はない。ピラーが目につき、視界を遮る感じがする。ウインドシールドの上端も邪魔である。

 エンジンをかける。動き出して道路に出るところで、ウィンカーを出すのにワイパーを動かしてしまつた。ポロと同じ感覺で操作すると斯うなる。と言ふか、普通は國産車に乘つてゐる癖で、ポロ等の外國車に乘るとこれをやるものだ。本質的な問題ではない。

 道路に出てアクセルを踏むと、元氣よく加速する。試乘車のトランスミッションはCVT。MTの試乘車はあまり用意されてゐないらしい。輕だから小さい排氣量だが、トルクをよく引き出してゐる。

 試乘コースは平らな住宅地の道で、相模原市内だからそれほど起伏はない(少しある)。てってこ普通に走らせるが、特に氣になるところはない。アクセルを踏めばきちんと走る。40km/h制限の道を走らせる分には不滿はない。

 夏の暑い盛りである。午前中で陽射しもある。幌を開けて走つてゐるが、エアコンはちやんと效いてゐる。風も感じられる。オープンらしく開放感はある。ウインドシールドが小さいので、前方の視界は狹く、思つたほど開放された感じはしない。幌を閉めれば狹苦しいかも知れない。

 交叉點を曲がるのにも違和感はナシ。小さいくるまなので、小囘りは效いて當り前だが、狹い道では便利である。

 試乘の終盤、國道十六號線を走る。50km/h制限の四車線(片側二車線)の幹線道路である。大きなトラックやトレーラーがびゅんびゅん走つてゐる。小さい輕オープンカーでは少々怖い。流れが良いのも怖いが、すぐ前が詰つて速度が出ない。速度を落とさねばならないが、アクセルを戻しても動きが讀めずに、可なり怖い思ひをした。

 トランスミッションがCVTなので、エンジンの囘轉を落としても、囘轉を落としただけくるまの速度が落ちない。止まりさうで止まらない。何處で止まるかわからない。

 ポロのDSGと云ふトランスミッションは、構造がMTと似てゐる。クラッチペダルを操作しないと云ふ共通點はあるが、トルクコンバータ式のATやベルト等で動力を傳へるCVTとはまるきり構造が異つてゐる。MTと同じやうにギアががつちり噛合つて動力が繋がるので、エンジンの速度とくるまの速度とが感覺的に一致する。アクセルペダルを離してエンジンの囘轉を落とせば、機械的にひつかかるやうな感じで速度が落ちていく。コペンのCVTでは、エンジンの囘轉を落としても、動力を傳へて、速度を維持しようとしてしまふ。

 アクセルペダルの操作でくるまの速度を制御する癖がついてゐるので、CVTのコペンでは何處でブレーキを踏めばいいかがちよつとわからなかつた。ブレーキの效き方も把握してゐない状況なので、いざとなれば踏めばいい、とも思へず、澁滯のけつにつくのにおつかなびつくりといつた調子になつた。最後に角を曲つてディーラーに戻る。


 CVTのネガが強く出たけれども、MTだつたら印象は違つたかも知れない。走つてゐる間の、走り自體の感觸はそこそこ良く、フィット3よりは樂しかつた。先代デミオほどはぴんとこなかつたが仕方がない。惡い癖はなく、街中で乘るのに不都合はない。山道や高速道路では何うだらう。

 混んでゐない住宅地の道で、信號にひつかからないで、輕く流せるなら、樂しいくるまである。幹線道路でまはりを背の高いトラックに圍まれると怖い。

 最初はいい氣分で走らせてゐたが、最後はちよつとげんなり、といつた感じで、まあ、今買ふやうなくるまではないな、と思つた。よつぽど良ければ買ふ氣でゐたのだが、そこまで良いと云ふわけではなかつた。

 カタログを貰つてディーラーを後にした。それからポロを驅つて本屋(と古本屋)をはしごした。ポロの運轉席にゐて、まはりのくるまに怖い思ひをする事はない。うしろにトラックがひつついて來たけれども、アクセルペダルを踏み込んだら後方はるか彼方に消え去つた。

 基本、ポロはかつちりしたくるまである。エンジンの振動は感じられるが、アイドリング時は靜肅極まる。コペンは、オープンカーである割に頑丈な作りだと言はれるのだけれども、アイドリング時に車體がぶるぶるふるへてをり、ドイツ車ほどにかつちりとはしてゐない。ポロはコンパクトカーと言へどもさすがに普通乘用車であり、コペンはスポーツカーとは言へ所詮は輕自動車である。