デミオを買つた話

公開
2017220
執筆者
blueday ( @blueday )
おことわり
この記事は2015年春頃に執筆されたものです。

1 デミオを買つた話

ちよつと前にくるまを買ひ替へました。

以前は父から受け継いだ平成一桁年式の日産・パルサー1・5Lセダンに乗つてゐたのですが、さすがに走行距離が20万キロに届かうかといふところになつてくると、あちらこちらが傷んでくるのもやむなしでせう。父の代からタイミングベルト交換やオイル漏れ修理等々、修理の機会には事欠かなかつたのですが、それでひとまづ落ち着いたかと思つたのも束の間、乗り継いで数年し走行距離が伸びるにつれ、再び故障の脅威と隣り合はせのカーライフになつてしまひました。

例へばオルタネータが壊れて路上で突然エンストするやうになつたり、高速道路を走行中に変な音がするのでSAでエンジンルームを覗いてみたらファンベルトがちぎれかけてゐたり、ある時期からクラッチの繋がり具合の悪さを感じてゐたところにこれまた高速道路の走行中、料金所で停車した直後に殆ど繋がらなくなりJAFを呼ぶ羽目になつたり。それでも買ひ替へが面倒臭いからといふ理由で修理して乗り続けたのだから、我ながら大したものです。

しかし何事にも終はりはやつてくるものであります。ある日いつものやうに、今度はサーモスタットが故障し水温が下がらなくなつてしまひました。ドタバタの挙句にどうにか故障の原因も判明し、なんとか短期間で修理も済んで事なきを得たのですが、「いい加減そろそろ買ひ替へろや」といふ周囲からの風当たりが最大瞬間風速最高記録を更新する勢ひで襲ひかかつてきたのです。トドメは、いつも車検を頼んでいた某ディーラー勤務の親戚からの一言「次の車検は幾らかかるか分からんぞ」。年貢の納め時といふやつですね。私もやうやく諦めをつけて、代はりのくるまを探す事にしました。

次のくるまの条件としては、以下のやうな感じでした。さほど拘りがあるわけでもなく。

はい最後の条件で相当に選択肢狭まりましたね。先だつてクラッチのトラブルについて書いてゐる事からお察しの通り、私はMT車乗りでした。そして当然のやうに、次もMT車がいいと考へたのです。しかし皆さんご存知の通り、今時MT車なんて絶滅危惧種です。基本的に物好きしか乗りませんし、当然のやうに中古の出物もさうさうありません。そもそも新車の時点でMT設定のある車種が極めて限られてゐます。

で、その限られた一部の車種であり、それも廉価モデルからMT設定のある貴重な代物がデミオだつたわけです。私がデミオ乗りになつたのも当然のなりゆきと言ふか、運命と言ふか、まあ探したら条件に合致するのがデミオくらゐしかなかつたといふだけの話なのですが。

実際のところは他にも1台条件に合致する別車種が見つかり、年式は古いものの値段が安く走行距離も短いので、最初はそちらを買ふつもりでした。しかし悲しい事に、いざ成約と販売店に赴いたところ「3時間程前に売れた」との事。しかも他のくるまには目もくれずの指名買いださうで。こんなところにも私とデミオとの運命が見え隠れしているやうな気がします。ちなみに、私が最終的に中古MTデミオを購入したマツダディーラーの人から後日聞いたところによると、私と成約した3時間程後に同じデミオを買ふ気満々の客が訪れたさうです。中古車購入は一瞬の迷ひが運命を分ける無情の戦ひといふか、やつぱり運命だなあとしみじみ思つた次第です。

2 マツダ・デミオ

といふわけで、マツダ・デミオに乗つてゐます。

つい先日モデルチェンジした新型 (DJ) ではなく、先代 (DE) のSKYACTIVになる前のモデルの中古です。買つたのは割と最近なので、まださほど乗り馴染んだくるまといふわけでもないのですが、買つたばかりの頃の「借りてきたくるま感」はなくなり、そろそろ「自分のくるま」としての愛着も湧いてきたところです。今回、このくるまについての印象を簡単に書いてみたいと思ひます。

外観は先々代までの「荷物積めさう」感から一転、スタイリッシュに舵を切ったデザインとでもいふのでせうか、横から見るとシュッとしたスマートなラインを描いてをります。そこからの流れで丸みを帯びたお尻は、遠目にも「あーあれデミオだー」といふ感じで割と特徴的なんではないでせうか。オーナーの身内贔屓ですかさうですか。前から見ると短いフロントノーズが中心に向けて絞り込まれてゆくところ、タイヤハウスの部分だけポコッと膨らんだ感じが可愛げを感じさせるお顔です。新型の魂動デザインほど主張が強くなく、おとなしめではありますが落ち着きのある良いデザインだと思ひます。

内装は高級感とは流石に無縁なものの、安つぽさを感じさせるわけでもない、必要充分を少し超えた十二分くらゐで個人的にはなかなか気に入つてをります。シートの座り心地も、左右の張り出しが程良く身体にフィットする感じでなかなか良いのではないでせうか。以前の車とは大違い、つてそりやあ平成一桁年式の大衆車と比べたらイカンですねさうですね。ともあれ、助手席にたまに座るウチの母の評判も上々なので良かつたです。ただ、全体的に丸みを帯びたデザインなので、後付けでアレコレ取り付けようとすると若干苦労するかもしれません。

さて、実際に日常の足使用やらたまの遠出やらで数ヶ月乗つてみての印象ですが、概ね世間の評判通り、一部の欠点に目を瞑れば大変良いくるまだと思ひます。私の乗つてゐるMTモデルの場合、一般道の平地はもちろん坂道でも高速道路でも、ギア選択とアクセルワークを誤りさへしなければ極めて軽快に気持ち良く走つてくれます。そこはMT車特有の、ドライバーの操作に対するレスポンスの良さがきつちり出てゐるといふ事なので、世の殆どを占めるAT車乗りの方々の参考にはならないかもしれませんが。それでも、普段の走行中に変な挙動を感じた事は今のところないので、トランスミッションの違ひにかかはらず走りの良いくるまであるといふ事は言へるのではないかと思ひます。

続いて以前のくるまと比べてみると、デミオの方がかなり足回りがしつかりしてゐると感じられます。以前のくるまがボロすぎて足回りがヘタつてゐただけかもしれませんが、それを差し引いても、の感触です。マツダディーラーの人によると、マツダ車は全般的に足回り固めに作られてゐるさうですので、あながち間違ひでもないのではないかと思ひます。

それは悪く言へば、例へば路面の凹凸による振動がかなり直に伝はつてくるといふ事であり、乗り心地といふ点では必ずしもプラスではありません。しかし、路面の状況がドライバーにしつかり伝はつてくるといふ意味でもあり、運転を楽しみたい人にとつてはむしろ利点となります。また、高速道路などでの高速走行時にはその安定性を遺憾なく発揮するため、ついつい速度が出過ぎてしまつても気付きにくいといふ、利点だか欠点だか分からないけれども、とりあへずコンパクトカー離れしてゐるとは言へさうな特性を見せてくれます。

さて、今度は欠点について挙げてみると、まづは後席や荷室の狭さがあります。確かにお世辞にも充分な広さとは言へませんが、コンパクトカーとしてはまあこんなものぢやないの、といふ気もします。コンパクトカーに広さを求める人は、例へばフィット辺りを買へば良いのではないでせうか。DE以降のデミオはあくまで走り優先のくるまであると肝に銘じませう。

お次はコンパクトカー共通の話ではありますが、以前の車と比べて燃料タンクが10L程小さくなってしまつたため、より頻繁に給油する必要があるのが欠点だと感じられます。あ、最近のコンパクトカーは低燃費だからそれはおかしいと思つたそこのあなた、私が乗つてゐるのがMT車だといふことを思ひ出して下さい。いやまあ効率的にはATよりMTの方が良いと一般的には言はれてゐますが、私はわりとエンジンを吹かしがちな、エコとは対極に位置するやうな走り方をしてしまつてゐるので、それが大いに影響してゐるところがあります。ただしエコ走行の有無を差し引いても、10Lの差は大きいのではないかと思ひます。

あと、エンジンはあくまで1・3LNAであり、性能はそれ以上でもそれ以下でもない、といふ事は一応申し上げておかうかと思ひます。いくら走りが良いとは言へ、過度の期待は禁物であります。その点新型デミオは、クリーンディーゼル1・5Lターボのモデルを選ぶと別次元を味はへるのでおススメです。次の買ひ替へでは絶対クリーンディーゼルにしよう、と試乗してしみじみ決心したのでした。この辺りの話は項を改めて書きたいと思ひます。

とはいへなんだかんだで、良いくるまですよ先代デミオ。しつかりメンテナンスしつつ乗り潰す覚悟です。

3 マツダ・SKYACTIV-D 1.5

エコカーといへばハイブリッド、といふ今の日本の風潮に真つ向から立ち向かふかのやうに、マツダは日本市場にも新世代のディーゼルエンジン車を投入してゐます。既にアクセラ・アテンザ・CX-5には SKYACTIV-D 2.2 が搭載されてゐますが、それに加へていはゆるダウンサイジングターボの流れとして、デミオ・CX-3では SKYACTIV-D 1.5 が搭載され、発売とともに好評を博してゐるやうです。CX-3はディーゼルのみの設定ですし、新型デミオも受注の半分以上がディーゼルだとかいふ話で、そんなに人気なら乗つてみたいなと思つてゐたところ、運良く試乗する機会がありましたので、簡単に感想など書いてみたいと思ひます。

まづは新型デミオ。先代デミオを購入した少し後、1ヶ月点検でくるまをマツダディーラーに持つて行つた際に、待ち時間を利用して乗せて貰ひました。モデルは XD Touring 。普段がMT車なため、それと比べてAT車はアクセルワークに対するレスポンスが若干悪いなーなどと思ひながらの走り出しとなりました。しかし、停止状態からの加速はスムーズで、なかなかの力強さです。しかもエンジン音がとても静か。カタログスペックでも最高トルク発生時のエンジン回転数が低い (1600 - 2500 rpm) のが目を引いてはゐましたが、なるほど発進時にエンジンを大きく吹かす必要が無いのは良いなと感じました。

そこから巡航速度まで持つて行かうといふ頃にはターボもしつかり効いてきて、これまた実に気持ち良く加速してくれます。直線でグッとアクセルを踏み込んだ時の加速は実にパワフルで、2・5L並みの性能との表現には偽りなしと言へさうです。その後の走行も実に安定感があり、コンパクトカーのクセして高速道路でクルージングしたら快適さうだなとしみじみ思ひました。

さてその日は「次に乗るならディーゼルがいいかなー」とか思ひながら家路についたのですが、後日CX-3に試乗する機会にも恵まれた時の感想は「次は絶対ディーゼルにしよう」に変はつてゐました。

といふわけで次はCX-3。今度のモデルはXDです。前回の新型デミオと基本的にエンジンは同じなので、走りとしてもわりと似通つてゐる感じがあります。もちろん車体の大小の違ひはあり、こちらの方がより安定性に優れてゐるのだろうとは思ふのですが、新型デミオとで大きな差を感じなかつたといふのが正直なところです。それは試乗したコースが概ね平坦だつた事に起因しているかも知れません。もつとじつくりと色々乗り比べてみたい、といふかいつそ色々所持して思ふ存分乗りまくつてみたいところですが、残念な事にワタクシそんな車道楽が出来るやうな身分ではございません。ああ悲しい現実かな。

とまあ冗談はさておき、この日はまだ時間があつたので、ついでにアクセラスポーツの1・5Lガソリンエンジンモデルにも試乗してみました。本当に何の気なしの試乗だつたのですが、これが実に正解でした。ディーゼルとガソリンの違ひがあからさまに出たからです。

まづ試乗開始直後、道路に出てアクセルを最初に踏み込んだ時点で決定的に違ひました。CX-3の時と同じ程度におつかなびつくりゆるりと踏んだのですが、エンジンがうなりを上げ、その割に加速があまり強くない。「うわッ! 全然違ふ!」思はず口から漏れ出てしまふくらゐ。その後加速していくにつれ、パワー自体はそこそこ感じられるやうにはなつてくるのですが、いかんせんエンジン音がCX-3と比べると相変はらず大きい。何なのこれ。

ディーゼルエンジンといへば「うるさい・加速しない・黒煙もくもく」の三拍子揃つた不人気者といふのがよくあるイメージですが、この試乗中、少なくとも前二者についてはディーゼルとガソリンで逆転してしまつてゐます。あれれー? おかしいなー? なんて事を考へてゐたかどうかはともかく、そんな感じでディーゼルすげえ! ディーゼルすげえ! と心の中で連呼しながらの試乗終了となりました。

止めは試乗終了後に、クリーンディーゼル試乗車のマフラーを見せられてのマツダディーラー営業氏の言。「もう何千キロも試乗で走りましたが、全然汚れてないでせう?」確かに煤とか全然付いてないんですね。いやまあ、毎日きれいに拭いてるんぢやないかとかさういふ疑念はこの際持たない事にしませう。「エンジン音は静か、加速は良くて燃費も良いし、燃料も安い。これでディーゼルを選ばない理由がないんですよ」いやホント仰る通りですハイ。

といふわけで、ターボの有無の違ひはあるとはいへ、同じ排気量1・5Lのディーゼル車とガソリン車を乗り比べた結果、完全にディーゼル派と化してしまつたわたくしであります。皆さんも是非、マツダディーラーで両者を乗り比べてみて下さい。さうすれば、私のこの感動を理解して頂けるのではないかと思ひます。マツダのクリーンディーゼルすげえ。

あ、でもたぶん、メンテナンスを怠るとこの感動もやがて台無しになるのだらうなー、とは思ひました。皆さんも、くるまのメンテナンスはきちんとしませうね。

4 MT車とAT車の違ひの話

ディーゼル車とガソリン車を乗り比べて感動したといふお話について、「それなら新型デミオに乗つた時はなぜ感動しなかつたのか?」といふ疑問を持たれるかもしれないので、理由をお答へしておきませう。一言で言ふと「MT車とAT車は全然違ふ」。

前に触れましたが、MT車はシフト操作・クラッチワーク・アクセルワークと全て人間が行ひ、その操作がかなりダイレクトに車の挙動に反映される代物です。人間の技量次第でくるまはおてんばにもおしとやかにもなります。そのMT車の特性がいかにも「くるまを操作してゐる」といふ感じを味ははせてくれ、それが好きで私はMT車に乗つてゐるのですがそれはさておき。

MT車のそんな特徴と比べるとAT車のエンジン周りの挙動は基本的に、極めて御行儀が良いのです。そして私はMT車の操作があまりうまい方ではなく、愛車の先代デミオにもわりとおてんばな走りをさせてゐるため、たまにAT車に乗るとどうしてもその御行儀の良さにばかり気が行つてしまふのです。要するに、AT車を評価するにあたつてMT車を比較対象にはしづらいのです。あくまで個人的な感想ですが。

ちなみに、トランスミッションがCVTの場合は更に違ふ感触になるのでせうが、私はCVT車に乗つた事がないので何とも言へません。新型デミオもCX-3CVT設定はありませんし、先代デミオもCVT設定は例外的で、基本的にはトルコン式ATのやうです。

といふわけで、今回はディーゼルとガソリンのAT車同士を比較することが出来たための斯様な感想と相成つた、といふ事で何卒よろしくお願ひ申し上げます。

5 デミオで高速道路を走つた話

ふとデミオでロングドライブをしたくなり、GW近辺の平日に高速道路をぐるり走つてきました。

ETC深夜割引を適用させるため、日付が変はつた頃に出発です。平日深夜の高速道路はガラガラで、大分道のやうな比較的アップダウンの激しい道でも、一度スピードに乗つてしまへば充分スムーズに快適に走る事が出来ます。やがて鳥栖JCTから九州道を南下、福岡県から熊本県北部辺りは道も平らでカーブも少なく、デミオのエンジンが遠慮なくうなりを上げ、ロードノイズがカーステレオの音をかき消しつつ走り続けます。

やがて燃料が心許なくなつてきたのでSAで給油、えびのJCTから宮崎道に入る頃には空も白み、まだまだガラガラの4車線を気持ち良く走行してゐたらなんだか瞼が重くなつて参りました。さすがに夜通しの運転で疲れてしまつたので、道中のPAで停車し一眠りです。デミオのシートが仮眠に向いてゐるとはとても言へませんでしたが、それでも長時間の走行中にも特別身体が痛くなるとかいふ事はなく、ここまでは良かつたのです。ここまでは……。

仮眠を取つて一息ついたところで再出発、清武JCTから東九州道に入つたのですが、ここからが地獄の始まり(当社比)でした。時間帯は日中とくれば当然走行車両も増え、対面通行の道ではあつといふ間にチンタラ走行の車に捕まり、一緒に低速走行を強いられてしまひます。イライラしつつ僅かに存在する追越車線をひたすら待ち、やうやく辿り着いたところで満を持してシフトダウン、アクセルオン!

……ああ……やつぱり1・3L・NAや……加速が物足りない……物足りなさ過ぎる……もつとパワーを!

さうしてそのイライラに拍車をかけるのが尿意、尿意、尿意。途中SAPAが殆どない! 全然ない! 用も足せなければ飲み物の補給も出来ない! 宮崎県中部から大分県中部に至るまでの区間、これぢや信号がなくて歩行者がゐないだけのただの一般道みたいなもんやないか!

といふわけで、再び大分道4車線区間に戻つてきた時の安堵感たらなかつたのでした。

以上、前半楽しく後半苦しき高速道路ドライブの記録はこれにて。