スイフトに乗つた次の日は雨だつたので、その次に晴れた日に、マツダのディーラーに出かけた。お店がうちから遠いので、マツダは当初、検討の対象にすら入れてゐなかつたのだが、念のため……といつたところ。
16号線から直で入るのが怖かつたので、いつたん先の信号まで行つて、そこから路地にまはりこんで、裏から駐車場に進入。セールスマンの人が出てきて誘導して呉れた。早速、コルサからの乗り換へを考へてゐる、デミオとアクセラを見せてほしいと伝へた。お店に行く直前、モデルチェンジした許りのアクセラの、ラインナップで一番のグレードのくるまが、微妙に予算内に入る事に気附いてゐた。アクセラは、でかい事はでかいから、よつぽどの事がなければ買はないだらうと思つたけれども、評判が非常によろしい。お店に這入ると、アクセラが一台置いてある。
先づはデミオのカタログを貰つて、話をしてみた。セールスマン氏は、コルサもなかなかの名車であつたと褒めて呉れる。知人が乗つてゐたさうな。若手の人で、フレンドリーな印象。
エンジンはSKYACTIVの1.3リッター一択――グレードは13-SKYACTIVになる。エアバッグ等の安全装備を充実させるとなると、ベース車にオプションをつけていく事になる――が、丁度今、その辺の装備をつけた特別仕様車がある、13-SKYACTIV SHOOTING STAR MAGENTAと云ふ特別仕様車が大体希望通りの仕様だから、それで金額を出しませう。
金額が出てくる間、セールスマン氏はちよつと中座。一人で取残されて暇なので、置いてあるアクセラを興味津々といつた風情で眺めまはしてゐた。戻つてきたセールスマン氏にはアクセラについても聞いてみる。カタログを持つてきて、説明して呉れた。
さうかうしてゐるうちに、デミオの試乗の準備が出来た。デミオはラゲッジルームも後部座席も明かに狭い。コルサに比べてもどつこいどつこいといつたところ。灯油缶二つは載る模様。もつとも、その辺は実際あんまり重要とは思つてゐないので、まあ大丈夫だらう、と云ふ事で話を済ませる。
エンジンをかけて試乗開始。駐車場から裏の路地にいつたん出て、それから広い道に出る。
最初から実にしつくりくるくるまで、ハンドルを握つてすぐ、ぴんときた。スイフトと違つて、くるまを走らせてゐる、といつた感覚がある。ハンドルだけでなく、くるま全体で、ドライヴァに路面の情報を伝へてくる。
トランスミッションはCVT。アイドリングストップ機能がついてゐる。いづれも違和感をあまり覚えさせない。ブレーキの感触も自然。乗る前と乗つた後とで印象ががらりと変つた。
道は住宅街の中の二車線道路で、それほど曲線もなく、起伏もない。それでも十分痛快なドライヴだつた。小さなくるまで、パワーはないから、アクセルを踏んでみても無闇矢鱈と飛ばせるわけではないが、がんばつて走つてゐる感じがして大変好ましい。道路工事の関係で、試乗コースの終盤は狭い住宅地の路地を走る事になつたが、低速でも走りやすいし、角も曲りやすい。安全確認も問題なくできる。16号線を通り越して、裏路地からお店に戻つた。近距離だからもうちよつと乗つてゐたい、と云ふ感想を持つた。駐車場ではバックで車庫入れをためしてみたが、斜めに入つてしまつて苦笑ひ。
デミオはドライヴァがくるまを操る面白さを感じられるくるまである。人馬一体と表現されるあれだ。ドライヴァの思つたやうに動く。セールスマン氏も、今のマツダが運転のフィーリングを重視してゐる事を言つてゐた。マツダのくるまは乗つてみると印象が変る。乗つてみてほしいとの事。
つづいてアクセラが用意されてゐると告げられた。
アクセラはデミオよりも一まはり大きい。デミオがBセグメントに属するのに対し、アクセラはCセグメントに属する。全長は、デミオが4メートルに達しないが、アクセラが4.5メートル弱。全長は、デミオが1.7メートル弱だが、アクセラが1.8メートル弱。
座席に坐つてみただけでも、クラスの違ひが解る。デミオは背もたれを立てて、きちつと坐るべきくるまだが、アクセラは背をやや倒して、ゆつたりと坐つた方が良い。ハンドルもアクセラはちよつと重め。動かしてみると、やつぱりどつしりしてゐる。
何しろこんなでかいくるまは初めてなので(と言つてもCセグメントのくるまなので、絶対的に大きくはない)おつかなびつくり走らせる。裏路地に出るところではぶつけないかと我ながら冷や冷やしたが、きつちり曲がつて呉れてゐる。広い道に出たのでアクセルを踏み込むと、デミオとは違つた力強い走りを見せる。
とは言へ、試乗したアクセラは、ラインナップの一番下、ガソリンの1.5リッターなので、アクセラ一族の中で力は一番弱い。上に2リッターとハイブリッド、そしてディーゼル(当時は未発売)がゐる。しかし、1.5リッターつて力が強いんだな、とその時の俺は思つた。
さきほど走つた同じ道をアクセラでも走る。大きくても街中の広い道ではそれほど不安はない。デミオのやうな「操つてゐる」と云ふ感覚は薄いが、平行移動とは違ふ「くるまを運転してゐる」と云ふ確かな感覚はあり、面白い。最後の直線でデミオと同じやうにアクセルを思ひ切り踏み込んでみると、デミオと違つた強い加速感があつた。その後は住宅街の裏道を走つて、駐車場まで辿り着いた。
ハッチバックのアクセラスポーツを試乗したのだが、駐車場ではセダンも見せて貰つた。セダンの方がデザイン的にはまとまりがいいみたいだ。
くるまが違ふとまるで性格が違ふ。デミオとアクセラは、同じマツダのくるまだが、乗り心地も運転の仕方も大きく違つた。クラスの違ひである。そして、同じクラスに属してゐても、スイフトとデミオとは、やつぱり性格が違つてゐた。マツダで俺はくるまについて大事な事を学んだ。
マツダのディーラーではお正月のお客さんと云ふ事で、おみやげを貰つた。高級なクッキーらしいので期待したが、後日開けてみたら入つてゐたのは4枚だけだつた。まあしやうがない。
セールスマン氏からはその後、特にアプローチはナシ。マツダはディーラーによつてはしつこく売り込みがあるさうだが、さう云ふ事はなかつた。