次の日、116iがやつてきた。
目がとんがつた先代の1シリーズである。その一番下のグレード。
エンジンかけつぱなして置いていつて呉れたので、そのまま近所を一周してみた。おつかなびつくりの運転なので、あんまりぴんとこない。でかいので車庫入れは苦労しさう……と思つたが、小回りがきかないものの意外と言ふ事をよくきく。
BMWの1シリーズ。「同じ外車」と言ふけれども、ポロとは正反対の作りのくるまである。本当に、笑つてしまふくらゐ、似てゐない。
ポロは前輪駆動のくるまである。一方、BMWは後輪駆動である事を最大の特徴とする。エンジンはどつちも運転席の前、ボンネットの下に鎮座してゐるから、ポロはFF、BMWはFRのくるま、と云ふ事になる。
エンジンのかけ方からして違つてゐる。ポロはキーを鍵穴に差し込んでひねる。BMWはスタートボタンを押す。ポロのやり方は今では最う古臭い部類に入つてしまふ。ボタンによるスタートは、ハイブリッド車では当り前、ガソリンエンジン車でもフィット3で採用されてゐて、今後は主流になつていくだらう。
他にもステップトロニックによるシフトアップ/ダウンがポロのマニュアルモード(使つた事がない)とは逆である、とか、細かいところでも違ひがある。
乗る前にその辺の知識を仕入れてゐたので少し身構へてゐたのだけれども、うちにきた翌日、多摩の山の中を走らせてみたりしたら、案外違和感はなかつた。と言ふか、そんなに違ふとも感じられなかつた。でかいので(1シリーズはポロより一箇上、ゴルフと競合するCセグメントのくるまだ)、アクセラと同じやうに、少しリラックスした感じで坐つた方が自然な運転姿勢になる、といつたくらゐの違ひ「しかない」。あと、ハンドルが無茶苦茶重い。
それほどへんなくるまでもねえなあと思つたのだが、意外なところで「FRらしさ」を感じられた。何日もくるまがなくて家に何にも食べるものがなくなつたのでお買ひ物に出かけたのだが、駐車場でゆつくり角を曲がつてゐる時に解つた。
ハンドルは重いが、曲がり方がとても素直だ。
ぴんときたのだが、これ、MT車と同じなのである。FFのMT車。交叉点やクランクで曲がる時、前輪駆動でもMT車だとクラッチを切るので、前輪に動力が伝はらなくなるから、AT車よりもハンドルの操作が楽なのだ。FRだとエンジンの動力は常に後輪にのみ伝達されるので、前輪はひたすら曲がる操作に追従するだけでいい。BMWの特徴としてハンドルは重いが、ハンドルを切つたら切つた分だけきつちり曲がる。FRだからなのである。
何しろMTで免許をとつたので、曲がる際の感覚はMT車のもので刷り込まれてゐる。あれだ、と思ひ出して、なつかしい気分になつた。FFのMTとFRの感覚は案外似てゐる。
くるまがでかいのは致し方なく、ぶつけないやうに気を遣ふ必要があるが、狭い道でも思つたやうに走らせられる。安心は安心なくるまだつた。
一方、案外足許がしつかりしない、と感じる時も。道の真ん中辺りが盛上つた道を走つてゐる時、妙に左にくるまが流れる感じがした。
基本的にDレンジでずつと走つてゐたから、おとなしいくるま、と云ふ印象しか残つてゐない。アクセルを踏めばちやんと加速するから街乗り程度ではそれほど困らない。くるまの流れを乱さない程度にのんびり走るのは安全運転になる。安心は安心。
ただ、ゆつたり坐る着座姿勢である以上、あたりをきょろきょろ見回して安全確認するのは億劫になりがちになつた。サイドミラーを見る癖はつけたが、直接、目視で確認するのは基本なので、良し悪しだ。
ただ、ミラーを見る癖をつけたのは車庫入れの際に役立つた。BMWはギアをリバースに入れると左のサイドミラーが下に向きを変へる。うちの前は広い道で、歩道に乗り上げて車庫に這入る事になる。歩道の切り下げた場所を確認するのに、ミラーが向きを変へて呉れるのは助かつた。今までは勘でやつてゐたから、無理に乗り上げて段差を越えてゐた。ちやんと入れる練習になつた。
BMWはドライヴァに親切な機能をくるまに澤山つけてゐて、操作ミスをフォローして呉れる。サイドブレーキを引いたまま(ブレーキのかかつたまま)うつかり運転を始めてしまつたら、警告音をえんえん出して注意して呉れた。
やはり大きなくるまは大きいだけで練習になる。116iくんにはくるまの運転について、いろいろな事を教へてもらつた。
が、1箇月がたつて、時期がきたので、レンタカー会社の人が引取りにきてしまつた。ポロは依然、直らない。